2011年7月10日日曜日

ホタル

昨日、俺は生まれて始めて屋外でホタルを見た。

定かじゃないか、もしかしたらどこかの動物園か何かでケージに入っているものは見ていたかも知れない。ただ、俺はホタルを見た記憶はないし、その生息地に赴いた覚えもない。

ホタルほど、誰でも知っているのに実は見た人の少ない生き物も珍しいのではないだろうか。昆虫があんなに光るなんて、皆バカみたいに「へえ、そうですか」と信じているが、ホタルどころか光る昆虫、いや発光する生物さえ見た事もないのにそう易々と信じられるならば、ツチノコだって信じるのだろうと思うが、そうでも無いのが不思議だ。

ホタルは写真や映像がよく出回るからだろうか。しかし今時、写真もう動画もどうとでもなるからな。

と、まあ脱線は置いておき、ともかく俺はホタルが見たかった。本当はちゃんとした生息地に行きたくて、その計画も立てたか立てないか(少なくとも生息地は詳細に突き止めた)のだが、いかんせん何とも忙しく、休みの日のうち予定がない日に、ちょうどよくその…一人高速道路を走るモチベーションが確保できない。

で、悔しいので、行くつもりでは無かった地元の「ホタル祭り」と称されるイベントに夜、出向いて来たのだ。妻曰く「そもそもわざわざアチラ様が出向いてくださるのにこちらが出て行く事は無い」のだそうだが、俺はやはり、ネイティブのが…。

と思いつつも、まあ、付近の民家園+自然観察園のような場所の湿地に放すらしいから、以外とそれっぽいものが見えるかなと。

果たして、夜8時にチャリで出向くと、なかなかの盛況で市長まで来て挨拶などしており、その後順路に従い公園を進み、いざ問題の湿地へ。

さほど広いわけじゃないが、少なくとも数百平方メートルはあるんだろうなという湿地を囲み、人びと(主に小さい子供を連れた家族)が、目を凝らす。

だが、どこにも何にも光らない。誰か、訳知り風のお父さんが、「今日は月が明る過ぎるから光らないんだよ。もうちょっと待ったら光るかも」なんて言うのが聞こえた。

頭上に輝く弦月を見上げ、ふーん、なるほどなんて思いつつ、ほんとかよとも思いつつ、しばし。

木が繁る暗いエリアの方から、「おおぉ…!」と低いどよめきが起こった。とっさに目をやると、少し遠くの陰に、錯覚かと思うような光跡がちらと見えた気がした。

それからしばし。

ホタルが馴染んだのか、「木陰がいい」とか「根元にいる」とか人びとが観察のコツを掴み始めたからか、あちこちで歓声があがるようになった。俺も、半歩引いて見ていたが、それでも結構、そこかしこに、草に揺れ、あるいはフラフラと飛ぶ、しかし思っていたよりも鋭い光の軌跡を楽しむことが出来た。酸化ルシフェリンが還元されるとかされないというのはどうでもいい感じがして、ただただ、不自然なまでの自然に嘆息した。

近くにいた3つくらいの子どもなど、ようやくホタルを発見すると「きぃゃーーーーーーーーー!!!」と奇声を発して喜んでいたから、うちにザッキーも連れてきてやりたかったが、イベント開始時間が就寝時間であるから。ま、来年かな。

俺はしかし、思った以上に奇麗なものだったからこそ、やはり天然のシチュエーションで見たいなあという想いを新たにした。


…ザッキーは、妻にどう説明されたのか、翌日(今日)、俺が夜にランニングに行こうとしたら、「かざむし(俺の事を最近そう呼ぶ)、ホタル山、行くの?」「ホタル山!おしりピカー!」「早く!早くホタル山行って!(悲痛に)」との事だった。

いったいどういう物語が2歳の彼女の脳内に展開されているのだろうかと思うが、ずいぶんとドラマチックな話になっている様子だから、やはり来年は「ホタル山」…と言えるような場所に連れてってあげたいと思うな。