「嗚呼、麗しい『自由と規律』」
…俺の通っていた県立高校の効果の一節である。
BメロだったかCメロだったかも思い出せないが、ここだけは旋律もはっきり覚えている。
俺は、新卒の時はある程度大きな会社に就職したが、そこには馴染めず、2度転職し、今の職場に落ち着いて5年ほどが立つ。
入社した頃は10人前後の社員しかおらず、まさに自由、ただし誰かが手抜きをすれば即会社は傾く、そんな状況だった。これが俺には馴染めた。
だが、その後、会社は順調に成長してしまい、今は社員は5倍に増え、これからも増員が計画されている。
人数が増えれば、「組織」特有の病は月並みに発症してきており、20代のルーキーだった俺も中途入社5年、三十路も半ばの中堅社員となり、管理部門が強化され、日々、「規律」の部分はとりあえず水平は出てるから問題ないだろ程度の型枠にコンクリを流し込むように、着実に固められてきている。
システムエンジニアという仕事において、人間とその創造的活動を山崎パン工場のラインに配置された「大福に餡子を注入する機械」と同じような尺度で稼働効率を測ろうとする姿勢に、断固反対、というより単純に不愉快だという意思表明でレジスタンス的行為を行いつつ、これも仕方ないことか、と諦めかけている今日この頃だが。
今日、ふとした理由で、社長に呼ばれ、新しい事業を考えている過去の大手のお客さんと初めて会い、一緒に食事をした。
気楽な場で、いろいろとくだけた話をする中で、そのお客さんが、自分の会社の状況について話す不満は、俺が今の会社に抱くものと酷似していることに気づいた。日頃、俺の抗議を受けている社長もそう言ったくらいだから勘違いではないだろう。
2時間ほど飲み、くだらない四方山話もする中で、ふと、出身地の話が出て、あれ?まさか?と…明らかになったことには、そのお客さんと俺は、同じ高校の出身だった。相手は4つ上なので同じときに在籍はしていないが、そう変わらない時期で。
都内通勤圏に立地する高校ではあるが、その出身者に仕事の場で出会ったのは初めてで、お互いに驚き、ローカルなネタで随分と盛り上がったが…。
その相手と俺との双方を数年前から知る社長から言わせれば、「自由と規律」というその言葉は、我々の共通項にあるもの、そのバックグラウンドとして大いに納得できるものだとのことで、俺自身もそう思った。
高校は、普通に偏差値が合うという理由で選んだ県立高校で、ことさら惨めでもなかったが、ことさら際立つ思い出もなく、ありきたりで、どちらかというと地味な生活を淡々と送ったようなつもりでいた。
だが、ある側面から見たときに、今の俺やそのお客さんの考え方や行動原理を、この高校の「創立の精神」だか何だかが、雄弁に説明しているとは…非常に驚きだ。
もちろん、それはたまたま同じ高校出身の、関連した業界に身をおく二人が、たまたまある部分で似た資質をもっていただけかも知れない。しかし、偶然ではない、と考えることも、不可能ではない。
面白いと思った。
いずれにしても、自分の関わる周囲に限ってみてさえ、世界は広く、狭く、面白い。
0 件のコメント:
コメントを投稿