2010年2月5日金曜日

グルメ批評 ビッグ・アメリカ・ニューヨーク・バーガー


マクドナルドの意欲作、ビッグ・アメリカシリーズの第二弾、ニューヨーク・バーガーを食する。

テキサス・バーガーでは食の舞台に骨太な男らしさをプレゼンスさせたMcDonald'sは、今回はどのような物語を聞かせてくれるのか。

バーガーは、深夜営業店舗にて、熟練スタッフが回転率にゆとりをもって調理できるため安定した品質が期待できる23時前後に購入。

カウンターに向かう時点で当然、私のオーダーは決まっていたのだが、敢て迷う。

すると、落ち着いた男性スタッフが、快い笑顔とともにサジェスチョンする。

「迷っておられるのでしたら、本日発売のニューヨーク・バーガーは如何ですか?」

押し過ぎることのない接客態度は十分な好感度だ。評価のためとは言えど、試すようなことをした自分が申し訳なく感じつつ、テイクアウトでオーダー。

ニューヨーク・バーガーを食し、評価するにあたって、私がテイクアウトを選択することには理由がある。

通常、冷製の食品を除けば、およそすべての料理は調理仕立てが美味である。湯気が上るような料理は、それだけで美味しそうに見えるものであり、また美味しく感じる。実際、人間の味覚は温度によってその感じ方に違いがあり、苦みや塩味は高温時においてマイルドになる傾向がある。すなわち、バーガーのような塩味の強いメニューであれば、調理仕立ての高温時はいずれ穏やかな味に感じる傾向があり、低温時にはどぎつい味になる傾向があると言える。

しかしながら、バーガー類は、他の料理に比べてテイクアウトにより供されることが多い。すなわち、バーガーの評価においては、一般的な食スタイルでありながらよりシビアなコンディションであるテイクアウトにおいて食することが、クリティカルな批評にこそ価値を求める私の評価方針である。


テイクアウトは、紙袋のみによる提供。ドリンクはそのまま渡される。近年のエコロジー意識の高まりに対応した取り組みは、McDonald'sの真摯な企業姿勢を感じさせる。


紙袋から取り出したバーガーは、やはり1枚の紙により簡素に包装されている。

しかしながら、白銀の光沢を放つ地色にブルーのプリントで意匠を配した包装紙は、そこはかとない高級感とともに、ニュー・ヨークの都会的センスを感じさ、これから食するバーガーへの期待感を高める演出効果は十分だ。


包装を解く。



特製グラハムのバンズから大きくはみ出すクオーターパウンドのビーフパティ、そしてグラハムとあわせてフレッシュなヘルシーさを感じさせるレタスが印象的だ。

食する。

バター系の風味が強い通常のバンズに比べ、グラハム(全粒粉)の香ばしい香り、そしてレタスのシャキっとした歯触りが心地よい。

そして、何と言っても力強いクオーターパウンドのパティ。頬張った瞬間に、バーガーを食べているという充実感に包まれる。もちろん、パティはビーフ100%。塩さえ使わない本物の100%でなくては出せない、純粋なる肉の旨味だ。挽き具合もほどよく、歯ごたえを感じるとともに口の中でほろっと解ける絶妙なバランスは新メニューながら老舗ならでは技術が光る。

さて、この力強いパティはともすれば重たくなり、バーガーのデザインをいびつにしてしまう。

ニューヨーク・バーガーはどうだろうか?


まず感じられるのはパティと濃密に絡み合うモントレージャックチーズの軽くマイルドな口当たり。熟成期間が短くクセのない風味は、ビーフ100%のパティにコクを与えつつ、過剰なしつこさを避けている。良い選択だ。

さらに、ソースはケチャップ系ではなくマヨネーズ系があわせられており、その軽やかな酸味はトマトスライスと相まって、ビーフとチーズの重厚な二重奏に爽やかな旋律を乗せるが如くハーモニーである。

また、トマトは、レタスとパティの間の物理的な隙間を埋めて、食感の繋ぎを良くするためにも一役買っていることを忘れてはならない。

噛むに従い、それらが混沌とした味わいをなし、バーガーならではの主食―主菜–副菜の一体感を味わえる。

さて、二口、三口と食べ進める。

パティヘビーになりがちなクオーターパウンドだが、ここで重要な役割を果たすのが粒マスタードだ。垂れたりせず、辛すぎもしないが十分な、絶妙なボリュームでトッピングされた粒マスタードは、ピリリと清冽な刺激でバーガーの印象を引き締める。

通常のMcDonald'sハンバーガーであればピクルスがこの役を担うが、バルキーなニューヨーク・バーガーにおいてはピクルスでは弱い。また、ダブル、トリプルでピクルスをトッピングする方法も考えられるが、その場合、マヨネーズ/トマトの酸味とコンフリクトしてしまい、バーガー全体のバランスは乱れるだろう。

したがって、ピックルスより一層ハイ・キーな粒マスタードを持って来たレシピは秀逸だ。

さて、しかしながら、粒マスタードは言わば諸刃の剣である。その強い香味は、素材の味を全面に押し出したビーフ100%パティや、あっさりとしたモントレージャックチーズに対して、勝ち過ぎてしまうこともある。

特に、辛みというものは食べ進めるほどに蓄積されて感じられるもの。後半になった時にマスタードが主張し過ぎてしまう可能性が看過できない。

ところが、やはりMcDonald'sのデザインは隅々まで隙がなかった。

クオーターパウンドのビーフパティに対してあまりに薄いベーコン。だが、この薄さが重要だ。最初のうちこそ存在感は希薄だが、バラ肉の脂によるベーコンの旨味は、口内に残り易く徐々に後味にスモーキーな骨太感を与える。同時に、脂は辛みを抑える効果がある。

そして、ここでレタスが良い仕事をしている。独特の苦みは、酸味や辛み、塩味といった刺激的な味覚に偏り勝ちな具材の中にあっては仄かながら確かな存在感を示し、またこの苦みが肉の甘みを逆に強調し、結果的にマイルドな方向に振り子を戻し、また次の一口での刺激と旨味への期待感を維持させるのである。

食べ進めるに従って蓄積されるマスタードの刺激を、同様に蓄積されるベーコンの旨味でバランスをとる。そして、それらが限度を超えてしつこさに変わる前には、バーガーは完食となり、満足感だけが残る。


徹頭徹尾、バーガーの代名詞たるMcDonald'sのデザイニングスキルと冴え渡るバランス感覚に唸らせられる仕上がりであった。

★★★★★


++++++++

えーと、今日はちょっと食べ応えのあるものを食べながらビールでも飲みたかったんだけど、いつもながら遅い帰宅で、リビングでガサガサやると娘や妻を起こしてしまうしなあ、とマクドナルドで飯を買い(ウチの近所は店が少なく、他の選択肢は吉野家のみ)、つまらないので徹底的に褒めたたえるレビューを書いてみました。
…もちろん、本当にこんなこと考えて食ってません。つうか意味わかりません。バーガーのデザイニングスキルって何なんでしょう。妙な拘りを感じさせるものの文法上怪しいカタカナ英語というのは、俺が抱くグルメだのアートだの評論する人への偏見の表現です。個人的にはたいてい偏見じゃないと思ってます。

まあ、普通にウマかったけどね、実際。

0 件のコメント:

コメントを投稿